大規模修繕工事と「時間外労働の上限規制」
働き方改革関連法が施行され、2019年4月から「時間外労働の上限規制」が適用されましたが、建設業は適用までに猶予期間が設けられていました。建設業には長時間労働や休日出勤、また人材不足という課題があり、一般企業のように時間外労働の上限規制をすぐに適用することが難しかったという背景があったからです。建設業は天候や資材入荷時期などの条件に左右されやすく、計画通りに進めることが難しい性格を持ち、時間外労働の上限規制の範囲内では工期に間に合わない場合があるため適用時期を遅らすことになりました。
しかし、猶予期間は2024年3月31日まで5年間です。来春からは「時間外労働の上限規制」が適用されることになります。この「時間外労働の上限規制」の導入により、建設業で締結する36協定にも大きな影響があるものと予想されています。36協定とは労働基準法第36条によって定められている「時間外・休日労働に関する協定届」を指します。従業員に「1日8時間・週40時間の法定労働時間を超過して労働させる場合」に労使で締結する必要がある協定です。法改正以前は締結すれば事実上は上限なく残業が可能だった「特別条項付き36協定」(本来の上限は休日出勤を含め月100時間未満・年間720時間以内)が存在し、建設業ではこの特別条項を締結し長時間労働がなされていた現場が多く見られましたが、これからは「特別条項付き36協定」を締結できるのは「臨時的な特別な事情」がある場合に限られます。また、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない協定届出書の内容も増えます。
また建設業は、長時間労働を余儀なくされているということに加えて、休日も少ないという側面があります。国土交通省の資料「建設業における働き方改革」によれば、建設業での休日のスタンダードは4週4休つまり「週休1日」で、約65%が「週休1日又はそれ以下」で働いているとのことです。しかし、「法定労働時間」が1日8時間・1週間で40時間以内と定められているため、これを超える部分は「時間外労働」となり、来春から「時間外労働の上限規制」が導入されれば、マンションの大規模修繕工事にも少なからず影響があるものと思われます。
大規模修繕工事では、工事を行わない休日は日曜日と祝日であることがほとんどです。そして1日の工事時間は午前9時から午後5時ですが、拘束時間は始業30分前から終業後30分です。つまり、8:30~17:30です。休憩時間を1時間としますと労働時間は8時間となりますので、月曜日から金曜日までで労働時間が40時間となり土曜日の労働は時間外労働となります。そうならないためには、月曜日から金曜日の労働時間を7時間として合計35時間。残りの5時間を土曜日の労働に充てるか、隔週土曜日に労働するなどを考えなくてはならないことになります。その結果、工事期間が多少長くなってしまいますので、大規模修繕工事の工事期間を考える際には、猛暑になる前に工事が完了するように、年末のあわただしくなる前までに工事が完了するように工事期間を考えていましたので、今までよりも早く工事を着工しなければならなくなります。また、足場の仮設期間も増加すれば工事費用もその分増加することにもなります。36協定の届け出を提出しておれば今までどおりで工事を進められると思いますが、次回施工会社選定支援の際にはチェックしたいと思います。
来年の春からの工事を検討されている管理組合様では、今年の夏過ぎから施工会社の選定に入るものと思われますので、選定の際には、「時間外労働の上限規制」を頭に入れながら施工会社の比較検討をしていただければと思います。