マンションの三つ目の老い
「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」の第95条に規定する指定法人の指定を受けた「一般社団法人マンション管理業協会」は、平成13年8月14日に設立されました。そして協会設立から約30年後の「平成20年度中期事業計画」には、次のように書かれています。
「マンション住民の高齢化に対応した管理組合運営支援策を検討すると共に経年変化の進んだ建物の資産価値向上のために「標準長期修繕計画指導・コンサル制度」による適切な長期修繕計画の作成を促進し、より良質な維持管理等の実現を図り、今後加速する建物と居住者の「二つの老い」への対応策を実施する」とあり、昨今、この「二つの老い」が問題視され非常にクローズアップされています。
「一般社団法人マンション管理業協会」の山根理事長が今年の新春インタビューで、さらに「もう一つの老い」について言及しています。「もう一つの老い」とは、マンションの現場に携わっている管理員や清掃員、そして管理会社のフロントマンの高齢化で、山根理事長は、従来からの管理業のビジネスモデルが維持できなくなると懸念されています。管理組合と直に接しているフロントマンが若くて優秀であれば、役員の方も非常に安心されることも多いと思いますが、人材面におけるマンション管理業界自体の構造に問題があると考えます。人材面には、給与・昇給昇格制度、休日・休暇、福利厚生などがありますが、特に休日・休暇等の勤務体系だと思われます。フロントマンの方とお話しさせていただく機会が多々あり、休日取得について聞いてみますと、以前に比べるとかなり取得できるようになったとのことですが、それでもまだまだ改善の余地があると思います。この人材面の改善に取り込もうとされている業界、というよりも会社があります。それは、三越伊勢丹ホールディングスです。
三越伊勢丹ホールディングスの大西社長が朝日新聞のインタビューで、「最高の状態で働いていれば、最高のおもてなしができる」との考えから、2018年から主要店舗で正月3が日を休業して、4日から営業することを検討すると答えています。私は以前百貨店業界に関わる仕事しておりましたので、1990年前後までは、百貨店ごとに定休日があったことを覚えています。たとえば、三越は月曜日、阪急や高島屋は水曜日、そして近鉄が木曜日です。また営業時間も、今と違って午後6時閉店でしたから、当時百貨店業界は花形の業界として就職の超人気企業で、優秀な人材が集まってきていました。しかし、閉店時間も午後7時に変更され、そして午後8時に、今や週末だけは午後9時に変更されて、定休日も撤廃されました。そして終には、一年で休みは正月の元旦のみとなりました。このような勤務形態の劣化から、次第に百貨店業界には優秀な人材が集まらなくなってしまい、そして売り上げも厳しくなるという悪循環が生まれてしまいました。その改善策として、残業は極力させないようなシフト勤務体系を確立させましたが、繁忙期になるとやはり休日も取得しにくく、残業もせざるを得ません。これが今の百貨店業界の現況だと思います。
今回の大西社長のインタビューの内容により、百貨店業界の人材面における構造改革が進み、「最高の状態」を作り出す勤務体系などができれば、業界自体にさらに優秀な人材が集まるようになり、社員が「最高の状態」で働けるようになるでしょう。そしてそれが、百貨店に買い物へ来られるお客さんに「最高のおもてなし」を提供できることになります。
マンション管理業界にとっても同様で、このことは喫緊の課題であり、道のりは遠いと思われますが、若くて優秀な人材が集まるようになり、フロントマン、管理員さんが「最高の状態」で、お客様である管理組合様に「最高のおもてなし」ができるようになるためにも、是非構造改革に着手していただきたいと思います。
そしてフロントマンの方が、管理組合運営のなかで、できる限り無駄な時間を削減できるようにサポートするのもマンション管理士の役割であると考えています。