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免震装置のデータ改ざん問題

 連日、免震装置のデータ改ざん問題が報じられています。油圧機器メーカー大手のKYBとその子会社のカヤバシステムマシナリーが製造した免震・制振用オイルダンパーの性能基準値が、国土交通省認定の基準値の範囲から外れていることが発覚しました。製品の性能検査工程で認定基準値から外れていた場合には、通常は製品を分解して基準値の範囲に入るまで調整します。3年前に発覚した横浜のマンションの杭問題と同様、検査データの値を認定の許容範囲内の値に書き換え改ざんした検査記録を提出した上で出荷しています。改ざん理由は、不適合品の分解・調整には平均5時間はかかってしまうので、杭問題の時と同じく納期に間に合わせるためです。カヤバシステムマシナリーの従業員が社内調査で、そのような説明をしたとのことです。
 国土交通省の指示を受けてKYBが、検査データが残っている製品を抽出して調べたところ、免震用は、国土交通省の基準よりプラス16.0~42.3%、制振用は顧客要望基準(国土交通省の基準なし)と比べてマイナス17.9%とプラス20.5%の製品が確認されたとのことです。国土交通省は震度7程度でも耐えられるとしていますが、KYBに製品の交換を指示しています。
 不適合品やその疑いがある免震ダンパーは7,550本で、903物件に納品されていることが公表されました。大阪では「通天閣」や開業したばかりの「なんばスカイオ」に使われ、東京では、東京オリンピックの会場となる「オリンピックアクアティクスセンター」や「有明アリーナ」にも使われているようです。建物の用途別では、住居が253件と一番多かったようで、高層マンションに納品されたものと思われます。この後、建材メーカーの川金ホールディングスの子会社である光陽精機でもデータ改ざんが行われていたことが発覚し、こちらの方は教育施設で多く使われています。


 自分がお住いのマンションで、KYBの製品が使われていたとしたらと、不安に思われる方がおられると思いますので、そもそも、「耐震構造」・「制振構造」・「免震構造」の違いは何かを見ていきたいと思います。
「耐震構造」は、頑丈な柱・梁で建物自体が地震に耐えられるように計算された構造で、建物が壊れないようにしていますが、揺れで家具等が倒れてしまいます。「制振構造」は揺れ(エネルギー)を吸収するダンパーを建物に設置するもので、高層マンションなどの重い建物には各階にダンパーを設置し、軽い建物には最上階にダンパーを設置します。揺れを吸収してくれますので地震による被害を抑えてくれます。「免震構造」は建物と地盤の間に積層ゴムなどの装置を介入することで、建物自体の揺れを軽減して壊れにくくするもので、揺れないため家具等の転倒が少なくなり室内での被害が大幅に減少されます。この「免震構造」では揺れを通常の3分の1から5分の1にまで軽減することができるようです。違いを簡単にまとめますと、「耐震構造」は揺れに耐えられる構造で、「制振構造」は揺れを吸収する構造、「免震構造」は揺れを伝えない構造です。
 このうちの「免震構造」のマンションでは、基礎部分や下層階に数多くの免震装置(天然ゴムと鉛等を重ね合わせた積層ゴムで構成されたもの)を設置して重たい建物を支えており、地震が発生しますと、マンションの建物はこの免震装置の上で揺れることになりますので、揺れを軽減さて家具等が倒れにくくなります。ただし、免震装置だけでは建物は装置の上で揺れ続けますので、その揺れを収束させてしまう「制振ダンパー」という装置が必要になります。この「制震ダンパー」の品質基準のデータ改ざんが今回の問題です。
建物を支えているのは積層ゴムの免震装置で、この免震装置の横に取り付けて免震ゴムの揺れを調整する補助的役割を果たすのが制震ダンパーです。この制震ダンパーの力が基準値よりもプラスになりすぎると、ダンパーの動きが硬くなってしまい建物に揺れが伝わりやすくなります。反対に基準値よりもマイナスになりすぎると、ダンパーの動きが柔らかくなり揺れ幅が大きくなってしまいます。ですから国土交通省はこの基準値の許容範囲をプラス・マイナス15%で設定しています。実際の顧客契約では10%が一般的だそうです。
 国土交通省は製品の交換を指示しましたが、比較的簡単な処理で済むのは「免震構造」のマンションです。交換作業としては、建物の基礎部分や中間部分に取り付けてある制震ダンパーを一つずつ外して基準値内の制震ダンパーに取り替えていきますが、建物の中での作業は行われませんので、生活への影響はほとんどないと思われます。反対に生活への影響が大きいと思われるのが「制震構造」のマンションです。
 「制震構造」には積層ゴムの免震装置は設置されず、建物の骨格部分に制震ダンパーを幾つも組み込みます。「制震構造」に組み込まれた制震ダンパーは、「免震構造」のそれとは違って壁の中に収まるような薄型のものです。従って、「制震構造」のマンションの制震ダンパーを交換するためには壁を壊す必要があり、非常に面倒な工事となってしまいます。「免震構造」は簡単で、「制振構造」は厄介だという事です。
 どちらにしても、これらの交換は建物の瑕疵ですから売主(不動産会社)の責任のもとで行われ、その費用は売主からKYBに損害補償とともに請求されることになると思います。またこの問題で、三菱地所や野村不動産は、現在販売中のマンションでKYBの製品が使われている物件については、顧客への信用が回復するまで新規契約を結ばないことを表明しており、新規着工や工事中のマンションの工期にも大きな影響が出そうで、2年後の東京オリンピックの関連施設工事にも影響がありそうです。

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