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大規模修繕工事とアスベスト処理

 長野県の飯田市にある保育園で、アスベスト(石綿)の飛散が疑われる改修工事が行われていた記事が、本日の毎日新聞に掲載されていました。保育園での改修工事等で石綿が飛散した例は、過去にも東京都文京区や神奈川県藤沢市でもあったそうで、今回の長野県飯田市の保育園では、天井板を外す工事を始め、天井裏の鉄骨に石綿の中でも毒性の強いアモサイト(茶石綿)が吹き付けられており、その一部が剝れ落ちてきたようです。石綿の飛散は否定できないようですが、飛散が短期間であったことから健康被害の可能性は低いと見られています。ただし、この石綿は「静かな時限爆弾」と言われほど潜伏期間が長く15年から40年とされていますので、今回、天井板などの廃材を運ぶ作業人が園児のすぐ近くを通っていますので、今は何もなくても、将来園児が、石綿が原因の疾患になることもゼロではありません。
 「大気汚染防止法」では、石綿の飛散を防止するために、特定建築材料(吹付け石綿等)が使用されている建築物等を解体、改造、補修作業を行う際には、届出および作業基準を遵守する必要があります。今回の場合ですと、工事発注者である保育園が作業を始める日の14日前までに、作業場所、作業期間、作業方法などを長野県の窓口に届出を行わなければなりませんが、届出を行っていません。一方施工業者の方は、石綿の有無について事前調査を行い、その結果等を作業場所に掲示しなければなりませんが、それも今回はなされていませんでした。保育園と施工業者は「法律の知識や認識が不足していた。」と釈明していたそうで、現在、園児らの今後の検査費用の負担や、もし万が一病気を発症した場合の補償についての協議がもたれているようです。
 アスベスト(石綿)とは、天然に産出された繊維状ケイ酸塩鉱物のことで、1970年~1990年に大量に輸入されて、保温・断熱・防音等の目的で建築物に使用されてきました。しかし、空気中に浮遊するアスベストの吸入が原因で悪性中皮腫、肺がんなどの発症が確認され、社会的問題となりました。統計によりますと、石綿関連で年間に亡くなられた方は、交通事故の年間死者を大きく上回っているようです。2018年の交通事故死者数が3532人ですので、それ以上の方が1年間で亡くなっていることになります。

 このアスベスト(石綿)問題は、分譲マンションで実施される大規模修繕工事に大きく関わってくることもありますので、管理組合様にも是非知っておいていただきたい事を少しお話したいと思います。
アスベスト含有製品を製造・使用することは現在では法的に禁止されていますが、2004年(H16年)までは使用されていましたので、2005年までに分譲されたマンションでは使われている可能性があるという事になります。今年で築14年以上のマンションです。ですから、特に築14年以上のマンションで大規模修繕工事を実施する際には気をつけていただきたいと思います。施工業者は、事前にアスベストの有無について調査を実施して、その結果を管理組合様に書面で説明しなければなりませんので、管理組合様は、施工業者を選定する際には、見積書に「大気汚染防止法によるアスベスト事前調査費用(調査結果掲示費用含む。)」の項目が入っているかどうかを確認してください。そして、工事着工前には、施工業者から事前調査の結果が書面で説明されたかを必ず確認してください。 
一般社団法人全国建物調査診断センターは、管理組合様あてに適正な管理のためにと「大規模修繕工事新聞」を発行しています。その中で、「事前調査」と「調査結果の掲示」について次のように掲載されています。
◆事前調査について
(1)次の建材の使用の有無を調査する。
○特定建築材料(吹付け石綿、石綿含有保温材等)
※吹付け材については、石綿の有無だけでなく、分析により含有率を把握すること
○石綿含有成形板(窯業系サイディング、石綿含有仕上塗材等)
(2)事前調査を実施する者
「石綿に関し一定の知見を有し、的確な判断ができる者」が事前調査を実施すること
①建築物石綿含有建材調査者
②石綿作業主任者技能講習修了者のうち石綿等の除去等の作業の経験を有する者
③日本アスベスト調査診断協会に登録された者
◆調査結果の掲示
○掲示場所
・公衆に見やすいように掲示板を設置
○掲示内容
・調査の結果 ・調査を行った者の氏名又は名称及び住所 ・調査を終了した年月日 ・調査方法 ・特定建築材料の種類と場所
○掲示期間
・解体等工事の開始時から終了時まで

 もし、事前調査結果でアスベスト含有建材が見つかった場合には、さらに建材の分析や大気測定などの詳しい検査が必要となりますので、工間と費用が大幅に膨らむ可能性があります。また、住民の皆様は勿論のこと、周辺住民の方々への周知、ご理解が必要となってきます。
アスベストの処理方法には、(1)除去工法(2)封じ込め工法(3)囲い込み工法の3つがあります。
(1)除去工法
特別な薬剤を、吹き付けられているアスベストに塗ることで工事中の飛散を防ぎ、アスベストの層を下地から取り除いてしまう工法で、アスベストを解体する時には一般的にこの工法が用いられます。
(2)封じ込め工法
吹付けられたアスベストの層はそのままにして、表面に薬剤を塗ることで塗膜を形成したり、あるいはアスベストの層内に薬剤を浸透させることで飛散を防止する工法です。
(3)囲い込み工法
吹き付けられたアスベストの層はそのままにして、空間に露出しないように板状の非石綿建材等で覆うことにより粉じんの飛散防止、損傷防止を図る工法です。
 この「封じ込め工法」と「囲い込み工法」は、「除去工法」よりも工期も短く済みますし、費用も抑えることができますが、アスベスト自体は依然残ったままです。万が一、東日本大震災級の地震が発生して、封じ込めるための塗膜が剥がれたり、囲い込みのために使用した建材等が壊された場合には、残ったままのアスベストが飛散してしまう恐れがあり、それによる被害の賠償責任を負わなければなりません。管理組合様は、それらを踏まえた上で、どの工法で実施するかを決定しなければなりません。この決定は、理事会や修繕委員会だけで絶対に行わないようにして下さい。必ず、住民説明会を開催して、アスベストの調査結果、処理方法、工期・費用について十分に説明して理解を得たうえで総会に諮っていただきたいと思います。それを怠ってしまいますと、後々、理事会役員の方や修繕委員の方が、組合員の方から責任を追及されかねませんので、是非お願い致します。
 アスベストの処理費用は、アスベストが使用されている部位や、量、形状、天井の高さ、その他の条件によって違ってきますが、相場は1㎡あたり1.5万円~8.5万円程度だとされていますので、かなりの費用が発生することを覚悟していただきたいと思います。なお、自治体によっては、石綿含有調査費や石綿除去工事の一部費用を補助する制度を設けているところもありますので、調査をすることになった場合には、一度確認してみて下さい。

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