区分所有法制に関する研究報告書
葉梨康弘法務大臣が9月中旬に法制審議会に区分所有法改正の検討を諮問しましたが、区分所有法制研究会が昨年3月から検討してきた内容を、「区分所有法制に関する研究報告書」として9月30日に発表しています。報告書は目次も含めて133ページあり、3つの大きな検討課題に分けられています。1つ目が「区分所有建物の管理の円滑化を図る方策」で、集会の決議要件の見直しや、財産管理制度等についてです。2つ目は「区分所有建物の再生の円滑化を図る方策」で、建替えを円滑に実施するための方策についてです。そして3つ目が「被災区分所有建物の再生の円滑化を図る方策」で、被災区分所有建物の再生を円滑に実施するための方策について記載されています。
この3つの検討課題のうちで、多くの管理組合様にとって最も喫緊の課題であるのは、集会の決議要件の見直しだと思いますので、この件についての報告書の内容をお知らせしたいと思います。
まず報告書では、集会の決議における区分所有者の対応について、以下のように分類しています。
現状の区分所有法では、C(棄権者・白票者)とE(所在不明者)は、決議の母数に含まれ、反対者として扱われています。従いまして、A/(A+B+C+D+E)が、普通決議では過半数以上、特別決議で3/4以上、建替え決議で4/5以上でなければ決議することができません。高経年マンションでは、C(棄権者・白票者)とE(所在不明者)だけで既に1/4以上になってしまい特別決議ができない状況になっているところもあり、ひどい場合には、Eだけで1/4以上のマンションもあります。
そこで、決議要件の見直しが行われているのですが、現在次の2つが考えられています。
① A/(A+B+C+D)が法定割合以上であれば決議できる。
② A/(A+B+C)が法定割合以上であれば決議できる。
①は所在不明者のみを決議の母数から除外する方法で、②は所在不明者と総会欠席者(欠席届者及び委任状・議決権行使書の未提出者)を決議の母数から除外する方法です。
報告書では、所在不明者を決議の母数から除外する仕組みについても触れられており、除外するためには、公的機関の関与の下で、必要な調査を尽くしてもなおその所在等が不明であることを確認する必要があると述べられています。公的機関としては裁判所又はマンション行政を担う市町村等の行政機関が考えられるようですが、区分所有法制研究会では裁判所の認定に委ねるべきであるとの意見が多かったようです。不明者の調査の程度については、調査のツールとして、不動産登記簿や戸籍、住民票、区分所有者名簿が考えられるとしています。
また、所在等不明の認定の効力の存続期間についても触れられており、①所在等の不明者が出現するまでの全ての決議の母数から除外する考えと、②認定の効力を一定期間(1年間、3年間、5年間、10年間)に限定して決議の母数から除外する考えがあるようです。②では、一定の期間が満了するまでに不明者が出現したときは、決議の母数から除外されなくなることも考えられるため、認定の取消しについての規定も検討する必要があるとしています。
その他、上記②のA/(A+B+C)場合には、集会成立のための定足数を設けることの要否、議案内容を充実させる必要性、また、区分所有者に重大な不利益を与えるおそれがある決議事項についてまでDを除外する仕組みの妥当性などが今後の課題として挙げられています。