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福岡市内マンションの傾斜問題(1)

 2015年にマスコミ等で大きく報道された横浜のマンションの傾斜問題を覚えておられると思いますが、同じような傾斜問題が福岡市内のマンション「ベルヴィ香椎六番館」でも起きています。このマンションは鉄筋コンクリート造7階建て全60戸で、1995年に分譲され、既に築25年経っています。このマンションは全8棟で構成されおり、5番目に竣工した棟で、分譲会社はJR九州と福岡綜合開発(現・福岡商事)、施工は若築建設と九鉄工業、設計は若杉建築設計事務所です。
 築2年目には、建物のひび割れの他に、玄関ドアが開かないお宅が複数出て、そのうち5戸が玄関ドアの取替対応が行われたようですが、3年ほど前に取り替えた5戸のうち2戸が再びドアの開閉が困難となったため、管理組合が独自に建物のレベル調査と杭長検査をしました。その結果、レベルの高低差が98mm、基礎杭の一部が支持層に達していないことが判明したようです。これを、売主側に原因究明を求めましたが、傾斜と多数のクラックは認めてもらえたものの、支持層まで杭が届いていないことが傾斜の原因であると断定することはできない、またその原因調査も行わないとの回答がなされたとのことです。2018年5月に裁判所に調停を申請しましたが、裁判所が調停案を出さないまま不成立となっています。
 そして今年1月に、民間検査会社に依頼して詳細な調査が実施され、4月22日に「調査結果の報告について」という文書が住民に配布されています。調査結果の説明会を4月26日に予定されていたのですが、今般の新型コロナウイルス感染拡大の影響で開催は延期することとして、調査結果の要約が報告されています。
 調査結果の要点は、
(1) マンションの傾斜が建設時から始まっていた
(2) 構造スリットが施工されていない
(3) 調査箇所の杭が支持層に到達していなかった
の3点で、杭が支持層に到達していなかったことは傾斜の原因の一つとして考えられるが、唯一の原因であると特定はできないとしています。訴訟となった場合には、原告側(管理組合側)が因果関係を客観的・工学的に立証しなければならないとしており、実際に、今までの建築紛争を見ても原告側が立証できずに泣き寝入りするケースがほとんどのようです。
 しかし、傾斜と杭の因果関係は立証することは難しいため販売会社や施工会社に責任追及することは難しくても、(2)の構造スリットが施工されていなかったことは明らかに「手抜き工事」であり、販売会社及び施工会社が言い逃れできることはできないとしています。
この構造スリットの未施工もあってはならないことですが、報告以外に構造計算上にも大きな誤りがあるようです。
 このマンションを設計した若杉建築設計事務所は既に廃業しているようで、このマンションの構造設計者がインタビューに応じているのですが、この方が、建築業界では当たり前のことなのかもしれませんが、素人が聞くと衝撃的な内容を話されています。
 それは、主要構造体と同じくらいに必要な「柱・梁接合部の検討」が省略されているということです。この問題の棟だけでなく、8棟全てです。いくら柱と梁が強固であっても接合部分が脆弱であれば、地震の際に大きな力が加わると、この部分が破壊されて、最悪の場合には建物が倒壊してしまう恐れがあるようです。
 それでは、何故省略されてしまったのか。このマンションが設計された時代背景にあるようです、当時は、構造設計者も建築確認の審査を行う行政庁も接合部の重要性をあまり認識していなかったため検討を省略することが多く、建築確認審査においても指摘されることが少なかったからです。
 建築基準法第20条に、構造体力が基準に適合したものでなければならないと規定されており、柱・梁接合部の検討は不可欠なものなのですが、熊本地震の被害状況を調査した際には、柱・梁接合部の損傷が数多く見受けられたことでも、この接合部の検討がなされていなかった割合が多かったのではないでしょうか。

<建築基準法第20条 構造耐力>
建築物は、自重、積載荷重、積雪荷重、風圧、土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃に対して安全な構造のものとして、次の各号に掲げる建築物の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める基準に適合するものでなければならない。

 また、構造スリットが施工されていないことについても、「玄関ドアの開閉がしづらい」というのは、構造スリットが施工されていない場合に共通する現象で、調べたところ中低層の鉄筋コンクリート造のマンションの半分以上が施工されていなかったようです。
 もし、区分所有者の方々が損害賠償訴訟を提訴した場合、インタビューに応じたこの方も責任を取らされるかもしれませんが、区分所有者の方々の心情を考えれば自己弁護している場合ではないと、今回のインタビューに応じたとのことらしいです。(続く)

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