新型コロナウィルス感染拡大による管理組合運営資金(管理費等)への影響
新型コロナウィルスの感染拡大が止まる様子がありません。
本日4月15日正午時点では、東京都2320名、大阪府894名、神奈川県579名、千葉県500名、埼玉県450名、福岡県405名、兵庫県403名、そして全世界では約190万人の方が感染されています。
このような感染拡大の中で、欧米などの各国では、新型コロナウィルスで打撃を受けられた個人や事業主の家賃の支払い猶予に向けた次のような対策が発表されています。
<アメリカ>
家賃を滞納しても120日間は延滞料徴収を禁止。8月下旬までの立ち退き要求を禁止。
<イギリス>
6月末まで家賃未払いを理由とした退去要請を禁止。
<ドイツ>
家賃滞納による解約を禁止。4~6月分の家賃に限って2年間支払いを猶予。
<シンガポール>
最大6ヶ月の家賃の支払いを猶予。
<オーストラリア>
家賃滞納による契約終了、未払いに伴う手数料及び利息の徴収を禁止。
反対に、家賃の支払い猶予等によって家主側が大打撃を受けることになってしまうため、それについても、それぞれの国が家主への支援策も発表しています。
一方日本はと言いますと、国土交通省が3月末に、不動産関連団体を通じて、ビル等の所有者が支払い猶予に応じるなど柔軟な対応を検討するようにと、現段階では要請しているのみです。
4月8日に緊急事態宣言が発出されて、一部事業者に休業を要請した自治体もありますので、それに伴い大幅な収入減となる事業者が出てきています。その支援策として、東京都では1店舗の事業者に50万円、複数店舗を持つ事業者には100万円の休業協力金を支給することを発表していますが、大阪府では、大阪単独では東京都のような真似はできないとして、市町村と折半で個人事業者に50万円、中小企業に100万円を支給する方向で調整しています。
休業要請による休業は家計収入に直接影響してきますし、経済の停滞により、まわりまわって今後遅れて影響してくることも考えられます。このことは、管理組合の運営資金である管理費等に、今は顕在化してないかもしれませんが、今後大きな問題として現れる可能性は少なくありません。
組合員の中で、大幅な収入減となってしまった個人事業主の方が現れるかもしれません。また、パート又は契約社員として働いておられた奥様が解雇されてしまって、家計収入が減ってしまった組合員の方も出てくるかもしれません。それによって、全てではないと思いますが、管理費等が支払えなくなり、結果滞納者が増えることも考えられます。
先程のような各国が発表した家賃の支払い猶予と同じように、管理費等の延滞猶予を表明するわけにはいきませんので、管理組合として今出来る対策をとっておく必要があると思います。例えば、次のような対策が考えられるのではないでしょうか。
*今まで以上に理事会で未収金状況を確認すること(管理会社にも指示)
*今までの滞納者とこの度の件が要因となった滞納者(以下「本件滞納者」という。)を区別して管理すること
*本件滞納者の相談受付(個人情報に配慮した受付方法についての検討が必要)
*遅延損害金の徴収の是非についての検討(1ヶ月の滞納でも徴収している管理組合の場合)
*今期管理費余剰金の修繕積立金への振り替えを行わないこと(定期総会未開催の管理組合の場合)
今までの滞納者は勿論ですが、本件滞納者の滞納が長期化しないように、管理組合で決められた督促方法に従って実施し、毎月の理事会で滞納者とその金額を把握し続けることが重要だと思います。
万が一滞納が長期化した場合、滞納管理費等の消滅時効は5年となっています。しかし、この時効の完成を阻止して、時効期間を再スタートさせることができます。先月までは、これを「時効の中断」と言っていましたが、民法が4月から改正されて、「時効の更新」と呼ばれています。「時効の更新」は、確定判決により権利が確定された場合などによってできますが、もう一つ「承認」をすると「時効の更新」となります。書面による「催告」だけでは、時効の完成が猶予(従来の「停止」)されるだけで、6か月間だけ時効を遅らせることができますが、「時効の更新」とはなりません。従いまして、催告と併せて、滞納者から「〇年〇月分の管理費等につき〇〇円の滞納があることを認めます」という旨の書面(管理組合が作成)をお渡しして、その承認書を提出してもらうことを常習化しておくのが良いでしょう。
また、今回の民法改正で、時効を止める方法が新たに追加されました。それは協議による「合意」です。滞納者がなかなか滞納を認めてくれない場合には、当事者で協議を行う旨の合意(書面が必要)があれば、合意があった時から1年間時効が止まりますので、承認を拒まれたときには、この「合意」で「催告」よりも長く時効を止めておくことができます。ただし時効完成時期が過ぎているときの猶予期間には、「合意」と「催告」のどちらかしか効力を有しません。
民法第151条【協議を行う旨の合意による時効の完成猶予】
1 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。
一 その合意があった時から一年を経過した時
二 その合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
三 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から六箇月を経過した時
2 前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて五年を超えることができない。
3 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第1項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。
4 第1項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前3項の規定を適用する。
5 前項の規定は、第1項第三号の通知について準用する。
緊急事態宣言は今のところ5月6日までですが、状況によっては、引き延ばされることも考えられます。そうなれば、管理費等の滞納者の数も増え、滞納金額も増えることにもなります。これを機に、滞納者には、催告するとともに滞納の「承認書」を渡し、その都度「承認書」を提出してもらうことを常習化して、今後の滞納者に対応していただければと思います。