マンション管理アプリ「KURASEL」
三菱地所コミュニティがマンション管理アプリ「KURASEL」を開発したことを、運営会社であるイノベリオス株式会社(三菱地所コミュニティから分割されて誕生した会社)が記者発表しました。
マンション管理会社が管理組合様から受託している管理業務は、主に次の4つがあります。
A 事務管理業務、
B 管理員業務
C 清掃業務
D 建物設備点検業務
そして、Aの事務管理業務には、マンション管理会社の根幹をなす重要な業務である次の3つの基幹事務があります。
①マンション管理組合の会計業務(収入及び支出の調停)
②マンション管理組合の出納業務
③マンションの維持又は修繕に関する企画又は実施の調整(専有部分を除く)
これらの基幹事務は、マンション管理適正化法によって定められており、管理会社は、この3つのうち一部を外部に再委託することは認められていますが、3つ全てを一括して再委託することは禁止されています。
このマンション管理アプリ「KURASEL」を導入すれば、この3つのうち、①会計業務と②出納業務を行ってくれますので、③維持又は修繕に関する企画又は実施の調整は、管理組合様が自ら行うか、又はビルメンテナンス業者等に委託すればよいことになります。また上記Bの管理員業務は管理組合様が自ら雇用し、Cの清掃業務やDの建物設備点検も専門家に委託すれば、マンション管理会社に委託せずに自主管理ができるようになります。つまり、管理会社の世話にならなくても自分達の力で管理ができるようになりますよと言うのが、今回のマンション管理アプリ「KURASEL」の提案です。イノベリオスの安藤氏(取締役常務執行役員兼管理部長)は記者発表の席で、「管理会社に任せず、自分たちで管理する『自主管理』という選択肢を提案します」と、宣言したそうです。それでは、何故、管理会社である三菱地所コミュニティの新設分割会社のイノベリオスが、ある意味で自ら首を絞めるようなアプリを発表したのでしょうか。
その背景には、マンション管理会社が派遣する管理員や清掃員の人手不足という問題があります。時給を上げれば求人が来るかもしれませんが、簡単には時給を上げられない事情があります。時給を上げれば人件費が増加しますので、管理会社はその増加分を管理組合様から支払ってもらう管理委託業務費に転嫁することになりますが、管理組合様がそれを簡単に受け入れてくれません。しかし最近では、このままの人件費では採算が取れないギリギリのところまで来てしまったのか、管理会社が強気で管理員や清掃員の人件費の値上げによる管理委託業務費の増加を提案してきています。実際に、今年の定期総会で増額による契約更新議案が上程されたマンションが非常に多かったです。今はまだ、増額提案を受け入れ管理費等を増額できる余力があっても、近い将来には、管理費等を簡単に増額することができなくなり、適切な修繕が行われない管理不全のマンションとなってしまうおそれがあります。
そこで、この「KURASEL」を導入すれば、管理組合様としては、今まで支払ってきた管理会社への管理委託業務費を削減でき、結果、管理費等を増額せずに済み、その分を修繕積立金として積み立てることができるようになります。一方、管理会社から見れば、理事会運営サポートや会計業務をアプリが代替してもらえるので、フロント(担当者)の業務負担を軽減することができるようになります。もう一つ、穿った見方をすれば、利益が取れない業務を削ることができることです。「KURASEL」が代替する理事会運営サポートや会計業務は、ほとんど利益がないか、又は赤字ですので、これらの業務を行わずして、大きな利益が見込める修繕関連業務(特に大規模修繕工事)に力を注ぎ込むことができるようになります。
私としては、これがアプリ開発の一番の目的ではないかと考えています。
管理会社に委託していたときよりも、年間200万円のコスト削減が実現できるとし、今年9月から特定の管理組合で試験運用するとのことで、利用料金は、
1管理組合あたり月額3万5000円(税別)で、総戸数200戸を超えるマンションの管理組合では月額5万円(税別)だそうです。既に申し込み受け付けを開始しており、2024年末までに全国3000組合で導入し、2025年度には12億円の売上を見込んでいるようです。
「KURASEL」の3つの機能
【基本情報】
・所有者、入居者情報
・マンション情報
・修繕、保険等情報管理
・契約、発注管理
・共用部利用状況管理等
【理事会機能】
・理事会チャット
・資料保管
・理事会資料や議事録の雛形集
・FAQ
・スケジュール管理
・重要事項調査報告書発行等
【管理機能】
・収支状況
・滞納状況、催促
・予算案作成
・管理費等請求データ作成
・各種支払等
イノベリオスの安藤氏は、「国内10万2000ほどある管理組合のうち、現在自主管理を行っているのはだいたい1割。まずはその1割に(KURASELを)使ってもらいたい」と記者発表で話しており、管理委託費をめぐって折り合いが付かずに管理会社が撤退しまった自主管理組合や、管理会社が一度はさじを投げた管理不全のマンションなどをターゲットにするようです。
また、イノベリオスの安藤氏は、滞納した管理費の督促のための個別訪問や総会の手続き及び出欠票・議決権行使書の回収などはアプリではできず、また役員のなり手不足等の様々な問題は、やはりアプリだけでは解決できないとし、「すべて自主管理に移行するのではなく、マンション管理士が管理会社とは違った目線でサポートするなど、方策を考えている」とも言っています。