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ハイブリッド型バーチャル総会の実現に向けて

 一般社団法人マンション管理業協会が、ITを活用したハイブリッド型バーチャル総会実証実験を開始しました。現状の区分所有法では、バーチャルオンリーでの定期総会は開催できませんので、まずは、ハイブリッド型バーチャル総会の開催実現に向けて検証し、将来的にはバーチャルオンリー型の定期総会開催の実現を目指すようです。
 この実証実験実施期間は9月13日(日)までで、9月末には検討会を開いて実験結果を検証する予定だそうです。ちなみに、この実証実験に参加する管理会社は、住商建物(株)、(株)大京アステージ、大和ライフネクスト(株)、(株)東急コミュニティー、(株)阪急阪神ハウジングサポート、三井不動産レジデンシャルサービス(株)の6社です。

 そこで、ハイブリッド型バーチャル総会の開催実現に向けての課題を、経済産業省が策定した「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド 」(2020年2月26日)を参考にして、私なりに考察してみました。

1. 総会を開催できるための環境づくり
個々の組合員が、インターネットを使って総会に参加して議決権を行使することができるように、総会の開催場所と組合員との間で、情報伝達の双方向性と即時性が確保されている環境が最低限必要です。
また、サイバー攻撃や大規模障害等による通信手段の不具合が発生する可能性が考えられますので、管理組合は管理組合側による通信障害が発生した場合の議決権の行使方法及び有効議決権の取扱いなどについて、予め対策とルールを検討しておく必要があり、加えて、組合員が容易にアクセスできるように、管理組合は一定の情報提供等の対策を取ることが望ましいと思われます。なお、管理組合の管理が及ばない組合員側の問題に起因する不具合によって組合員がバーチャル出席できない場合も考えられますが、この場合は、従来の総会において交通機関の障害により組合員が総会会場に出席できないことと同様に取り扱い、こうした事態は総会の決議の瑕疵とはならないと考えられます。
<対策>
・管理組合が経済的に合理的な範囲において導入可能なサイバーセキュリティ対策
・招集通知やログイン画面における、バーチャル出席を選択した場合に通信障害が起こりうることの告知
・管理組合が総会にアクセスするために必要となる環境(通信速度OSやアプリケーション等)や、アクセスするための手順についての通知

2. 総会の招集方法について
管理組合は、今後、総会を招集する場合には、リアル総会の開催場所と共に、総会の状況を動画配信するインターネットサイトのアドレスや、インターネット等の手段を用いた議決権行使の具体的方法(当該IDとパスワード等)を通知する必要があります。その場合、以下のような課題が考えられます。
・全ての組合員に告知するのか、希望者のみに通知するのか
・希望者のみに通知する場合、開催間際にリアル出席からバーチャル出席に変更となった場合の通知方法
・上記変更期限の設定有無

3. 総会出席者の確認方法について
バーチャル出席者の確認方法については、事前に、組合員毎に固有のIDとパスワード等を通知して、組合員がインターネット等の手段でログインする際に、当該IDとパスワード等を用いたことで確認することになると思います。経済産業省のガイドにある株主総会では、途中入場も途中退場も想定して考えられていますが、管理組合の総会では事務処理は煩雑になってしまいますので、途中入場者と途中退場者は、出席者数にも議決権数にもカウントしないことになると思われます。また、バーチャル出席者をカウントするのは、何時までにするかの規定も必要となります。

4. 代理人の確認方法について
特にご親族の方ですが、遠方からバーチャル出席で代理人なるケースが、それほど多いと思いませんが、少し増える可能性はあると思います。この代理人のバーチャル出席についても、以下のような課題があると思われます。
・代理人のバーチャル出席の是非(代理人の出席はリアル総会に限る等)
・代理人のバーチャル出席を可能とした場合、代理人範囲の再検討
・本人のID、パスワード等と同じものにするか、別のものを設定するか
・なりすまし防止のための二段階認証やブロックチェーンの活用 

5. 組合員からの質問の受け方について
質問の受け方については、リアル総会の場合は、質問について挙手した組合員を議長が指名するスタイルが一般的ですが、時間等の都合によっては挙手した組合員が必ずしも発言できるわけではありません。また、議長は、組合員が発言するまで質問等の内容を把握することができませんので、議案に関係のない質問が出されることも少なからずあります。
一方、ハイブリッド型バーチャル総会の場合には、当日の質問等はテキストでの受付が想定されますので、議長が指名してから質問内容が打ち込まれることになりますと、時間がかかってしまい議事運営に支障が生じます。そのため、予め質問内容が記入されたものを受け付けることになると思われます。その場合、議長がその質問内容を確認した上で当該質問を取り上げるか否かを判断することが技術的に可能になります。また。質問の内容についてコピー&ペーストが可能であることから、議事運営を妨害するといった不当な目的で、同じ質問が複数回送られてくる可能性も出てきます。
予め質問内容を受けることにより、より多くの組合員にとって有意義な質問を取り上げることは、組合員との建設的対話に資すると考えられますが、一方では、議長において上記判断が可能になることをよいことに、例えば、理事会側に対して敵対的な質問であるという理由のみで恣意的にこれを取り上げないおそれもでてきます。以上の観点から、次のような対策等が考えられます。また、時間の都合上、全ての質問が取り上げられることはありませんので、適正性・透明性を担保するための措置として、後日、回答できなかった質問の概要を公開するなどの工夫は当然必要となります。
<対策>
・1人が提出できる質問回数や文字数、送信期限(リアル総会の会場の質疑終了予定の時刻より一定程度早く設定)などの事務処理上の制約や、質問を取り上げる際の考え方、個人情報が含まれる場合や個人的な攻撃等につながる不適切な内容は取り上げないといった考え方について、あらかじめ運営ルールとして定め、招集通知やWeb上で通知する。
・バーチャル出席組合員は、あらかじめ用意されたフォームに質問内容を書き込んだ上で管理組合に送信する。受け取った管理組合側は運営ルールに従い確認し、議長の議事運営においてそれを取り上げる。

6. 総会の出席と事前の議決権行使の効力の関係
バーチャル出席組合員には、リアル出席組合員に比べて、急な決断による出席の可能性が相対的に高いと考えられます。もし事前に議決権行使書を提出していた組合員が急な決断によりバーチャル出席した場合、ログインによる議決と議決権行使書による議決とが重複しないルール・システムがないと、実務作業が煩雑になり正確な出席組合員を確定することが難しくなるおそれがあります。たとえば、当日の採決のタイミングで新たな議決権行使があった場合に限り、事前の議決権行使書の効力を破棄し、反対に採決に参加しなかった場合には、当事前の議決権行使書の効力が維持されることにすることも考えられます。また、事前の議決権行使判断を変更する意思のない組合員のために、出席型ログイン画面の他に、参加(傍聴)型のライブ配信等を準備するといった工夫も考えられます。

 現時点でも、ハイブリッド型バーチャル総会実現への課題はこれだけ数多くありますが、それらの課題の対策として、管理規約を改正しなければならない箇所が幾つも出てきますので、整理ができ次第、管理規約改正案モデルをお知らせしたいと思います。

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