分譲マンションでの高齢化と認知症
分譲マンションでは住民の高齢化により役員の成り手不足が問題となっていますが、内閣府の「令和5年版高齢社会白書」によりますと、令和4年10月1日時点で、65歳以上の高齢者人口は約3624万人で、高齢化率は29%となっています。人口の減少により高齢者人口は20年後の令和25年をピークに以後減少はしますが、高齢化率は反比例して上昇を続け、3人に1人は65歳以上の高齢者になってきます。
高齢化以上に深刻な問題が「認知症」です。2012年は認知症患者数が約460万人、高齢者人口の15%という割合だったものが2025年には5人に1人、20%が認知症になるといわれています。当然分譲マンションにお住いで認知症になられる方も増えてくるということです。
この「認知症」を広辞苑で調べますと、「成人後期に病的な慢性の知能低下が起きる状態。いわゆる呆け・物忘れ・徘徊などの行動を起こす。主な原因は脳梗塞など脳血管系の病気とアルツハイマー病。」と書かれてあります。記憶障害や理解・判断力の障害、また、時間や方向の感覚がなくなる見当識障害などを発症し、進行すると徘徊や奇声、暴言や暴力へと発展することもあり、マンションの住民の皆様にご迷惑をかける可能性がでてきます。
たとえば、鍵を持たずして外出したために帰りオートロックが開けられない、自宅ではない住戸のドアを叩きながら開けろと叫ぶ、ゴミ出し日以外の日にゴミを出す、隣戸から怒鳴り込まれているとの錯覚による恐怖の訴えなどの事例が発生しています。実際、私の顧問先のマンションにおきましても、ある高齢者の方が夜になると他人の部屋のドアを叩きまわるという行為が頻繁に発生するようになり、理事会で対策を検討したことがあります。一時的に対応するのは管理会社の管理人がほとんどだと思いますが、管理人(管理会社)は全ての人に均等にサービスを提供しなければならないのが原則ですので、本来、認知症となった特定の人に特別に対応する必要はありません。もし必要であるのであれば、管理組合として正式に費用を含めて管理会社に依頼しなければならないと思われます。ただし、最近の管理人の人材不足を考えると、認知症の方を対応できる能力がある管理人さんがどれだけおられるのかという問題もあります。
<国土交通省資料>
また先程とは別の顧問先では、認知症になった方の議決権行使についてご相談されたことがあります。こちらのマンションは15戸程度の管理組合ですので、1戸当りの全体に対する議決権数割合が非常に高いため、認知症の方が議決権を行使できなくなってしまいますと、特に特別決議事項での決議において、1議決が承認・不承認に大きく関与してきます。そうならないためのご相談です。
組合員様が認知症になられた場合、まずは「成年後見制度」を申し立てることが考えられます。この申し立てを管理組合がすることができませんので、親族の方に連絡をとる、または地域包括支援センターに相談して申し立ててもらうことになります。「成年後見制度」の大きな役割は財産管理と身上監護で、本人の財産の「維持と管理」と、各種手続き等の生活面でのサポートで、不動産の売買や不動産の投資行為は認められません。それに対して、もう1つ考えられる「家族信託」の方は、それができます。たとえば、最終的に本人を高齢者施設に入居させるために、マンションを売却して元手にすることができます。勿論運用もできます。
管理組合での議決権行使については、「成年後見制度」では後見人が、「家族信託」では親族の方が行使することになります。ただし、「成年後見制度」では後見人になってもらえる専門家(弁護士や司法書士等)に報酬を支払う必要があります。「家族信託」の方は親族にお願いしますので、勿論費用負担はありません。原則として本人が認知症になってからでは「家族信託」の契約はできませんので、認知症の症候があらわれた組合員さんが出てきた場合には、本人に判断能力があるうちは「家族信託」という選択肢(「成年後見制度」のうち「任意後見制度」も可能)があることを、是非親族の方に教えていただければと思います。