大規模修繕工事で活用できる「新型コロナウィルス対策」のガイドライン概要
一般社団法人マンションリフォーム技術協会の会報の最新号(2020年12月発行)にて、「マンション計画修繕工事における新型コロナウィルス対策ガイドライン」という記事が掲載されていましたので、その概略をお知らせしたいと思います。
このガイドラインは、新型コロナウィルス感染症対策本部(本部長は内閣総理大臣)からの求めに応じて、一般社団法人マンションリフォーム技術協会に設置された新型コロナウィルス対策特別委員会で作成されたもので、昨年の6月末には既に発表されたものです。
新型コロナウィルス感染第3波が思うように縮小されていないことから、緊急事態宣言を3月7日まで延期されることになりました。今春着工の大規模修繕工事の場合は、早ければ2月末には住民向け工事説明会が開催されて、その後共通仮設工事が始まりますので、まだ緊急事態宣言発令中に実施を始めることになります。このようなスケジュールで大規模修繕工事を実施される管理組合様にとって、このガイドラインが少しでも参考になればと思っています。
また、通常2月末又は3月の初めに開催される住民への工事説明会ですが、会場が密になるようでしたら、数回に分けて、土日の午前だけでなく、平日の夜の開催も視野に入れて、開催の日時を検討していただければと思います。
<ガイドラインの概要>
●現場の感染リスク
感染リスクが高まる場所を、居住者の動線と現場の動線と分けて挙げています。
居住者の動線:エレベーター内部、各戸の専有部内の工事
現場の動線:現場事務所内部、作業員詰所内部
現場の対応策としては、
・作業員の毎日の入場時に検温行い、その結果を作業員名簿に記録
・マスク等による飛沫感染の防止
・ソーシャルディスタンス
・現場事務所等の消毒は、作業員入場前、昼食及び休憩前に実施
・作業員の手洗いは、現場入場前と昼食時及び休憩時を目安として励行
外部作業でのマスク着用については、夏場の熱中症リスクを考えて、管理組合と協議の上で緩和
●動線を分離する
できる限り居住者の動線と作業員の動線を分離して作業を行うことが提案されています。
・バルコニーでの作業時にはサッシを閉めてもらう
・開放廊下での作業では、事前に作業時間を広報して、その時間帯の通行をできるだけ自粛してもらう
・居住者には作業員への直接の質問などの会話を控えていただくよう周知する
・作業員は、朝夕の通勤、通学の時間帯にはエレベーターを使用しない
●仮設ハウスの環境
現場事務所内においては「三つの密」(密閉区間、密集場所、密接場面)を回避する意識の向上を図ることが重要である。
・一人当たり30㎡/時の換気量を確保する
・仮設ハウスでは換気ファンの設置を推奨
・仮設ハウスの2方向に窓を設置し、自然換気と機械換気を併用することも推奨
・作業員詰所での三蜜を回避するため、同一時期の最大作業員を考慮して詰所の規模計画
・共用するテーブルや椅子の定時消毒と入退室時の作業員の手洗いの励行
●専有部分の作業
給排水管の更新工事、玄関扉やサッシの交換工事には、十分な対策が必要である。
・入室する作業員の人数を最小限にし、マスク着用を必須とする
・入室する作業員は、1部屋ごとに手指の消毒またはゴム手袋を交換
・作業員同士の会話は極力避けて、もし会話をする場合は小声で行う
・室内養生は使い回しせずに、1部屋ごとに新しいものを使用
・万が一感染発症者が確認された場合に備えて、専有部分に関わった全ての作業員の履歴を記録保存
●管理組合との打合せ
管理組合の打合せ方法については、できる限り接触を避けるために、オンライン会議や電話やメールなどの使用可能なツールを活用することを検討する。
・オンライン会議については、管理組合側にデーター通信料がかかる場合に注意
・対面打合せでは、対面シールドを準備
・一般居住者からの問合せは、電話とメールを原則とする
・施工状況等の報告をオンライン上で行うことで管理組合側に確認してもらう
・場合によっては、現場での立会検査を省略することも検討
●感染者が出たら
作業人の感染が確認された場合は、建設業感染予防ガイドラインに沿って対応する。
・請負業者の従業員や作業員が感染した場合は、速やかに管理組合に報告
・都道府県の保健所などの指示に従って、感染者本人や濃厚接触者の自宅待機等の適切な処置を行う
・感染者の人権に配慮し、個人名が特定されないように留意
・新型コロナウィルス接触確認アプリ(COCOA)による通知があった作業員には、アプリの表示手順に沿って検査の受信を促す
●契約にあたって
これまでに例のない出来事であり、何をどこまでやれば正解かというすべての答えが出ていない状況である。民間(七会)連合協定マンション修繕工事請負契約約款の「第20条 不可抗力による損害」、「第30条 発注者の任意の中止権及び解除権」、「第31条 受注者の中止権」について、感染発生時の取り決めを協議して決めておくことが必要である。
・民法改正に伴って工事請負契約約款も改正され、「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」という文言に変わった。
・感染症対策をする旨の記載が仕様書に盛り込まれた際には、何をどこまでするかを明確にしておく。
・居住者の感染症対策に対する考え方は様々であるため、見積り、工事請負契約の前に十分に管理組合とのコンセンサスを得ておく。
・感染症対策に係る費用は工事費に反映されるため、管理組合がどこまでの対策を要望するのかを明確にしておく。
・現場でどれだけ対策を講じていても感染者が発生するケースが考えられるため、保健所などの指導を含めてやむを得ず工事を一時中止しなければならないことも想定しておく。
【参考資料】
★マンション計画修繕工事における新型コロナウィルス対策ガイド
★工事現場の対策事例:福岡(国土交通省九州地方整備局)
★工事現場の対策事例:長崎(国土交通省九州地方整備局)
★地域建設業における 建設現場の新型コロナウイルス感染症対策(一般社団法人 全国建設業協会)