逗子斜面崩落事故 女子生徒遺族が賠償提訴
神奈川県逗子市の分譲マンション敷地内の斜面が崩落し、土砂に巻き込まれた女子生徒(当時高校3年生)が死亡した事故から1年経ちました。女子生徒は、事故直前に大学に合格しており、葬儀の際には棺の中に大学の入学内定通知が入れられていたとのことです。女子生徒の未来を一瞬にして奪い去ってしまった、本当に可哀そうで残念な事故でした。
その一年の節目にあたる2月5日に、女子生徒の遺族が、マンション住民と管理会社の「大京アステージ」(東京都渋谷区)などに総額約1億1800万円の損害賠償を求め、横浜地裁に提訴しました。
事故の前日には、マンションの管理人が崩落斜面上部で亀裂を発見して、大京アステージに伝えていましたが、亀裂の存在が市や県に伝わっていなかったことが毎日新聞の報道で判明しており、遺族側は、大京アステージや管理人について、事故前日に亀裂を把握し崩落を予見できたのに、通行止めなどの防止措置を怠ったと主張しています。
訴状によりますと、マンションの建設着工前にマンション開発会社が専門業者に依頼した地質調査で、斜面は風化により強度が低下しており、「崩落地が数カ所あるので、落石を防ぐ対策を施すことが望ましい」と既に指摘されていました。
国土交通省の統計によりますと、昨年全国で発生した土砂災害は1316件で、うち7割以上の961件が7月豪雨の時期に発生しており、無降雨時の土砂災害は極めて少ないのですが、一年前の事故当時、逗子では事故の6日前からまとまった雨が観測されていなかったにもかかわらず、石垣で補強されていなかった斜面上部から約68トンの土砂が崩落しました。結局、県が公表した事故の最終報告書では、主因は「乾湿、低温による風化」とされています。
マンションの所在地は、「逗子市土砂災害等ハザードマップ」上で土砂災害警戒区域(イエローゾーン)に指定されており、現地は急傾斜地の崩壊の危険、つまり「崖崩れ」の危険があるとされていたのです。斜面の安全対策は、その斜面の所有者が講じなければならないことが原則ですが、急傾斜地法に基づき崩壊危険区域に指定されれば、県が防災工事を行うこともあります。しかし、県によりますと、同法は自然の崖を想定しており、下部が石垣で補強された現場斜面は対象外だったようです。
逗子市は事故後に、幹線道路沿いの土砂災害警戒区域(イエローゾーン)を緊急点検した結果、対策が必要と判明した斜面は20カ所にのぼり、そのうち13カ所は私有地だったそうです。管理にかかる工事費は数百万~数千万円に上る場合もあり、自治体の助成制度を活用しても所有者の負担は重く、基準を満たせば県が工事を行う仕組みもあるようなのですが、特に分譲マンションの場合、所有者全員の合意が必要なために円滑に進まないことが多いとのことです。
しかし、所有者に管理責任がありますので、管理上の過失によって第三者を死傷させたり、モノを壊したりした場合には、被害者に対する法律上の損害賠償責任を区分所有者全員で負うことになります。
もし、管理組合の加入する火災保険(「マンション総合保険」など)に「施設賠償責任保険」の特約を付帯していれば、保険金額を上限に損害賠償金等をカバーできます。ただし、設定している保険金額は管理組合によって違います。数千万円ぐらいの保険金額では、今回のような重大な事故では足らないと思われます。特にハザードマップ上でリスクが高い区域にある分譲マンションの管理組合様は、保険金額の設定については、より慎重に検討していただきたいと思います。
<参考>
土砂災害警戒区域(イエローゾーン)に指定されると、次の事が義務付けられます。
・宅地建物取引業者は、当該宅地または建物の売買等にあたり、警戒区域内である旨について重要事項説明を行うこと
・要配慮者利用施設の管理者等は、避難確保計画を作成し、その計画に基づいて避難訓練を実施すること
土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)に指定されると、次の事が許可制・規制されます。
・特定の開発行為に対する許可制
・建築物の構造規制等