区分所有建物の敷地の分筆の登記について
区分所有法の適用がある建物の敷地について官公署が分筆の登記の嘱託を行う場合の取扱いが、今年3月に、法務省民事局民事第二課長から各法務局民事行政部長及び地方法務局長あてに通知がなされ、同年7月に国土交通省住宅局市街地建築課長から公益財団法人マンション管理センター理事長あてに、管理組合への周知協力の依頼がなされました。
社会基盤の整備を行う公共事業のためには、マンションの敷地の一部を公共事業者に提供しなければならないことがあります。この際に、提供する敷地を分筆して登記する必要がありますが、登記実務においては、共有の土地を分筆するためには、共有者全員の同意が必要とされていました。民法第251条に「各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。」とあり、一部敷地を提供すること(処分)は「変更」と同様であると理解されているからです。昭和37年に、「共有者の一部の者に代位してする共有土地の分筆登記申請の受否について」の回答がなされ、民法と同じ解釈で、一人でも分筆に同意しない者があるときには、分筆の登記は受理されませんでした。そのため、緊急輸送道路の整備や都市基盤施設のための用地取得が急務とされる社会状況のもとでも、なかなか分筆の登記が進まず、公共事業が長期化しているケースが多くなっているとのことです。
こうした背景があり、今年3月23日付で法務省民事局民事第二課長から「建物の区分所有等に関する法律の適用がある建物の敷地の分筆の登記の取扱いについて」と題する回答が出されました。この回答は、東京法務局民事行政部長の見解に対して出されたもので、その見解の一部内容は次のようなものでした。
「法(区分所有法)21条において準用する法第17条の規定によれば、建物の敷地の変更は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で決するとされており、当該分筆の登記の嘱託の前提となる区画決定行為は、建物の敷地の変更に当たるものと解されるところ、当該分筆の登記の嘱託においては、被代位者及び当該代位者の有する議決権の4分の3以上であるほか、代位原因を証する情報として、売買契約書並びに当該区画決定行為及び分離処分可能規約の設定に係る決議が記載された管理組合臨時総会議事録が添付されおり、当該決議がされていることも明らかであることから、当該分筆の登記の嘱託を受理して差し支えないと考えます。」そして、出された回答が、「貴見のとおり取り扱われても差し支えありません。」でした。
それでは、実際に公共事業者へ敷地を売却するための手続ですが、次のように行っていきます。
まず初めに、建物の建っている敷地と公共事業に提供する敷地とを分筆してよいかどうかを総会で決議します。マンション標準管理規約第47条第3項第二号に「敷地及び共用部分等の変更」とありますので、この決議は特別決議になります。決議されれば分筆となり、公共事業に提供するほうの敷地は、区分所有法第五条第2項の「建物が所在する土地が建物の一部の滅失により建物が所在する土地以外の土地となったときは、その土地は、前項の規定により規約で建物の敷地と定められたものとみなす。建物が所在する土地の一部が分割により建物が所在する土地以外の土地になったときも、同様とする。」より、「みなし規約敷地」となります。
次に、この「みなし規約敷地」を専有部分と分離して売却(処分)できるようにします。マンションの場合、敷地と専有部分を分離して処分してしまえば、法律関係が複雑なり登記記録も繁雑になるため、区分所有法第二十二条第1項で「敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には、区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができない。」と定められています。そして、マンション標準管理規約においても、第11条第2項で「区分所有者は、専有部分と敷地又は共用部分等の共有持分とを分離して譲渡、抵当権の設定等の処分をしてはならない。」と規定されています。したがって、マンション標準管理規約と同様の規約条文のままですと、「みなし規約敷地」を専有部分と切り離して売却することはできません。しかし、先程の区分所有法第二十二条第1項には、ただし書き「ただし、規約に別段の定めがあるときは、この限りでない。」があります。つまり、分離処分できる旨の規約に改正すれば、「みなし規約敷地」を専有部分と切り離して売却することができるようになります。勿論、この規約改正の承認も特別決議です。
分離処分できるように規約が改正されれば、各区分所有者が自分の敷地共有持分を公共事業者に売却することになります。特別決議ですので、売却を了承しない区分所有者が数人いるかもしれませんが、その場合には土地収用手続きが行われることになります。
もしご自分のマンションで、公共事業のために敷地を提供することになった場合には、上記手続きに沿って進めていただきたいと思います。