自動ドアの安全対策について
国土交通省住宅局参事官(マンション・賃貸住宅担当)建築指導課から、公益財団法人マンション管理センター宛に、令和3年8月18日に「自動ドアの安全対策について」の情報提供がありましたので、お知らせしたいと思います。
消費者安全調査委員会(以下単に「調査委員会」)は、生命身体被災の発生及び防止を図るために、多発している「自動ドアによる事故」について調査を行い、その原因調査報告書を公表するとともに、国土交通大臣と経済産業大臣に意見を提出しました。それを受けて、国土交通省がマンション管理センターに情報提供と安全対策の周知を依頼したのです。
調査委員会が調査を行う発端となった事故は、2018年6月に発生しました。80歳代の女性が先行者に続いて店舗入口の自動ドア(引き分け引き戸)を通り抜けようとしたところ、全開していた自動ドアが急に閉まり始め、その女性の体にドアの端部(戸先)がぶつかり、その反動で女性が後方に仰向け状態で転倒して大腿骨を骨折してしまいました。
女性から被害の申出があったことから、調査委員会が自動ドアに関する事故を調べたところ、2014年以降の約5年半の間に、68件が事故情報データーバンクに登録されていたため、調査委員会が独自で収集した615件の事故(2018年から4年間の事故事象)を分析した内容が次のとおりです。
(1)被災内容別事故数
骨折17件、裂傷81件、擦傷34件、打撲133件、その他172件
死亡事故はなし
(2)年齢別事故数
9歳以下94件、10歳代19件、20歳代18件、30歳代32件、40歳代46件、
50歳代53件、60歳代60件、70歳代53件、80歳以上33件
(3)建物用途別事故数
商業施設187件、医療・福祉施設73件、金融機関等71件、集合住宅60件、
公共施設42件、オフィスビル38件
(4)事象別事故数
ぶつかる334件、引き込まれる81件、挟まれる72件、閉じ込められる17件
以上の分析内容を、さらに複合的に被災者の年齢別に分析したところ、次のことが判明したそうです。
最も事故が多かった9歳以下では、「引き込まれる事故」が61件もあり、その要因では「手を置く」が24件、「戸袋部侵入」が14件、「集合玄関機等操作関連」が11件だったことです。そして特筆すべきことは、この9歳以下での「引き込まれる事故」が、「集合住宅」で一番多く発生していることです。61件中19件で31%です。
また60歳代以上では、「ぶつかる事故」が87件と最も多く、その人的要因は「斜め侵入」が30件、「駆け込み」が18件となっています。機械的要因としては「センサー検出範囲不備」と「センサー故障・劣化」とで54件です。発生場所は、「商業施設」が最も多く49件(43%)、「医療・福祉施設」や「金融機関等」も23件(20%)となっています。
製品設計の段階での安全対策等については、報告書をご覧いただければと思いますので、ここでは、集合住宅で一番多く発生している9歳以下の事故事象から、今後マンションの管理組合として、どのような対策を講じれば良いのかをこの報告書で見ていきたいと思います。
マンションの集合玄関機の自動ドアにおいて、9歳以下の「引き込まれる事故」が多いのですが、その要因の1つとして、集合玄関機の自動ドアの特徴があります。商業施設等の自動ドアの起動は、通行者がタッチスイッチを押すか、近赤外線センサーで人を感知して行われますが、集合玄関機の自動ドアは、室内や共用玄関脇に設置された装置で操作されます。つまり、入館者は、自ら装置を操作している間は、目線を操作盤に向けており、その時には自動ドアに目線はありません。9歳以下の子どもが装置を操作することは少ないですが、親が操作した場合には、一緒にいたお子様への注意が疎かになってしまい、お子様の手がドアに引き込まれる可能性があります。また、お子様がインターホンで開錠を求めた場合、親が室内から自動ドアを開錠するのですが、親は自動ドア前の安全確認が難しく、お子様が自動ドアに手を置いていることに気がつかず、開錠操作を行った結果、お子様の手がドアに引き込まれてしまいます。
日本産業規格(JIS)に、手がドアの戸袋や枠に人体部位が引き込まれないための「安全距離」が次のように示されています。
・指に対しては、8㎜以下又は25㎜以上
・頭に対しては、200㎜以上
・体に対しては、500㎜以上
しかし、子どもの体形について調査した調査研究報告書(平成20年度機械製品の安全性向上のための子どもの身体特性データーベースの構築及び人体損傷状況の可視化シュミレーション技術の調査研究報告書)では、次のようになっています。
<年齢別第5指(小指)爪基部厚>
・2歳 平均7.0㎜
・4歳 平均7.3㎜
・8歳 平均7.8㎜
・10歳以上 平均8.2㎜
この報告書のとおりであれば、8㎜の「安全距離」で設計された自動ドアでは、8歳以下の子どもの手が引き込まれる可能性があるということです。
このことから、8㎜以下又は25㎜以上の「安全距離」を変更するか、引き込まれないための設計が必要ということになります。
製造業者には、集合玄関機の設置を計画する場合には、子どもの手の引き込まれによる事故を防止するため、ドア監視の観点から共用玄関の操作者目線を考慮した操作盤の配置や戸袋部侵入の防止策などを検討するように。調査委員会は国土交通省と経済産業省に要望しています。
また、戸袋部に子どもの手が届かないよう措置を講じることが重要であることを建物所有者又は建物管理者へ周知することも要望しています。
最後に、建物所有者又は建物管理者がすべきこととして、
*センサー範囲を確保すること
*引き込まれ事故について認識すること
*保全点検を実施すること
*通行者への啓発資料を掲示すること
*安全に関わる情報を関係者間で共有すること
が提案されていますので、これらの内容を踏まえて一度理事会内で協議していただき、お子様への注意喚起を促していただければと思います。
自動ドアによる事故を防ぐために ~建物所有者、管理者が知っておくべきポイント~ 消費者安全調査委員会「自動ドアによる事故」調査報告書から