マンション建替え時の賃借人退去要請について
本日の日本経済新聞の一面トップに「マンション建て替えやすく 借り主退去、請求後半年で」という記事が掲載されていました。
このコラム欄で、国が区分所有法の見直しを行なっていることを何度もお伝えしていましたが、今回の記事の内容は、建替えに際して賃借人に退去してもらえず建替えできないケースに焦点をあてたものです。
国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」の第10条では以下のように規定されています。
甲(賃貸人)は、乙(賃借人)が次に掲げる義務に違反した場合において、甲が相当の期間を定めて当該義務 の履行を催告したにもかかわらず、その期間内に当該義務が履行されないときは、本契約を解除す ることができる。
一 第4条第1項に規定する賃料支払義務
二 第5条第2項に規定する共益費支払義務
三 前条第1項後段に規定する費用負担義務
2 甲は、乙が次に掲げる義務に違反した場合において、甲が相当の期間を定めて当該義務の履行を催告したにもかかわらず、その期間内に当該義務が履行されずに当該義務違反により本契約を継続することが困難であると認められるに至ったときは、本契約を解除することができる。
一 第3条に規定する本物件の使用目的遵守義務
二 第8条各項に規定する義務(同条第3項に規定する義務のうち、別表第1 第六号から第八号に掲げる行為に係るものを除く。)
三 その他本契約書に規定する乙の義務
3 甲又は乙の一方について、次のいずれかに該当した場合には、その相手方は、何らの催告も要せずして、本契約を解除することができる。
一 第7条各号の確約に反する事実が判明した場合
二 契約締結後に自ら又は役員が反社会的勢力に該当した場合
4 甲は、乙が別表第1第六号から第八号に掲げる行為を行った場合は、何らの催告も要せずして、本契約を解除することができる。
この10条では貸主が契約を解除できる事由が記載されています。賃貸借契約は、当事者間の信頼関係を基礎とする継続的な契約であるため、他の契約よりも契約解除できる場合が限られると考えられています。契約書で規定されている解除事由に該当すれば契約の解除が認められるというものではなく、当事者間の信頼関係を破壊するといえるほどに重大な背信行為がある場合に限り契約を解除できるとされており、賃借人の方から見れば、契約違反などの正当な理由がなければ退去する義務がありません。このことで、マンションの建替えが思うように進まない現状があるようです。
その為、国としては区分所有法の見直し要項の中に、所有者と借り主との個別交渉で解決しない場合でも、所有者が立ち退き費用などを補償することで賃貸借契約を解除できる内容の新制度を盛り込むようです。なお、法制審議会は明日21日に新制度を盛った要綱案のたたき台を提示する方針で、その後政府は区分所有法の改正案をとりまとめて、2024年の通常国会に提出する見通しだそうです。
●法制審議会が検討している要綱案の概要
<建て替え>
・「区分所有者5分の4以上」を「所在明らかな区分所有者の4分の3以上」
・決議後、借り主に半年後の立ち退きを請求することが可能に
<リノベーション>
・「全区分所有者の賛成」を「所在明らかな区分所有者の4分の3以上」
<建物・敷地売却>
・「全区分所有者の賛成」を「所在明らかな区分所有者の4分の3以上」
<被災時の建て替え>
・「区分所有者5分の4以上」を「所在明らかな区分所有者の3分の2以上」
<修繕等の普通決議>
・「区分所有者の過半数以上」を「出席区分所有者の過半数以上」
<海外居住者専有部分>
・国内の管理人を選任できる
<所在不明者専有部分>
・裁判所が弁護士などを選任
日本経済新聞記事(2023.11.20)
「マンション建て替えやすく 借り主退去、請求後半年で」