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Web会議システムを使った総会と理事会について


 本日の内容は少し長くなりますが、お付き合いください。
 最近、WEB会議システムなどを使って開催する「総会」についてのご相談、ご質問が届くようになりましたので、「WEB総会」について、また「WEB理事会」について整理したいと思います。
 まず「総会」についてですが、区分所有法第三十四条の第1項及び第2項には以下のように規定されています。
第1項:集会は、管理者が招集する。
第2項:管理者は、少なくとも毎年一回集会を招集しなければならない。
 ここでいう「集会」、「管理者」とは、一般的な管理規約では、「総会」、「理事長」のことです。つまり、理事長は、必ず最低年1回は総会を招集しなければならないと規定されています。そして、この「招集」という言葉ですが、日本大百科全書には、「合議体の会議を行うため、一定の期日に一定の場所にその成員を集めることを命ずる行為を法令上、招集という。」と書かれてあります。従いまして、理事長は、必ず最低年1回は一定の期日に一定の場所に組合員(区分所有者)を集めなければならないことになり、WEB会議システムを使った総会をその総会の代わりにすることはできません。マンション管理業協会は、IT技術を使用して遠方からでも総会に出席でき、議決権を行使できるような総会の実現に向けて検討を始めていますが、総会自体をWEB会議システムで開催できるようにすることは今のところは考えていないようで、あくまでも、従来の招集方法による総会において、遠方でも議決権を行使できるシステムの実現を目指しているだけです。
 そして、ご相談、ご質問でよく間違えられているのは、区分所有法第四十五条の内容と「電磁的方法」の意味です。第四十五条とは、以下の条文です。

(書面又は電磁的方法による決議)
第四十五条 この法律又は規約により集会において決議をすべき場合において、区分所有者全員の承諾があるときは、書面又は電磁的方法による決議をすることができる。ただし、電磁的方法による決議に係る区分所有者の承諾については、法務省令で定めるところによらなければならない。
2 この法律又は規約により集会において決議すべきものとされた事項については、区分所有者全員の書面又は電磁的方法による合意があつたときは、書面又は電磁的方法による決議があつたものとみなす。
3 この法律又は規約により集会において決議すべきものとされた事項についての書面又は電磁的方法による決議は、集会の決議と同一の効力を有する。
(以下、省略)

 まず、第1項では、書面又は電磁的方法(以下、「書面等」と言います。)で決議してもよいかどうかを、区分所有者(組合員)の全員の合意があれば、書面等で決議する方法をとることができると規定されています。ただし、一人でも、顔を突き合わせて決議すべきであると反対されれば、この書面等で決議する方法をとることはできません。そして、全員の合意があった書面等の決議方法で行った議決結果は、通常の総会議決と同じ効力があるとしています。また、ここでいう「この法律又は規約により集会において決議をすべき場合」とは、集会で決議が必要とされる場合のことで、以下の項目となります。
*共用部分の重大変更(第十七条第1項)
*共用部分の管理(第十八条第1項本文)
*規約の設定・変更・廃止(第三十一条第1項)
*管理組合法人の成立(第四十七条第1項)
*管理組合法人の事務の執行(第五十二条第1項)
*管理組合法人の解散(第五十五条第1項第三号、第2項)
*共同の利益に反する行為の停止等の請求(第五十七条第2項、第3項)
*使用禁止の請求(第五十八条第1項、第2項)
*区分所有権の競売の請求(第五十九条第1項、第2項)
*占有者に対する引渡し請求(第六十条第1項、第2項)
*建物の一部が滅失した場合の復旧(第六十一条第3項、第5項)
*建替え決議(第六十二条第1項)
*団地内の建物の建替え承認決議(第六十九条)
*団地内の建物の一括建替え決議(第七十条)
 そして、これらの決議事項を、書面等の決議方法で普通決議もしくは特別決議を行うことになります。
 ここで、注意していただきたいのは、何度も言うようですが、この書面等で行う総会を、前述の区分所有法第三十四条第2項に規定されている年1回の総会の招集に代えることはできません。必ず最低年1回は一定の期日に一定の場所に組合員(区分所有者)を集めなければなりません。また、もう一つの理由として、区分所有法の次の規定があります。

(事務の報告)
第四十三条 管理者は、集会において、毎年一回一定の時期に、その事務に関する報告をしなければならない。

 ここでの「総会」は、一定の期日に一定の場所で開催される「総会」と解され、その際に、必ず管理者(理事長)は組合員に対して事務報告をしなければならないことになっています。
 従いまして、この書面等で行う総会は、例えば災害等の緊急に臨時総会を開催しなければならないときや、少ない戸数(10戸前後)の管理組合が臨時に総会を開催するときに使われる方法と思って下さい。つまり、通常(定期)総会には使えず、臨時総会には使える総会開催方法です。
 そして次の第2項では、決議事項について全員が賛成であれば、その決議事項は決議されたことになると規定しています。第1項は、書面等の決議方法について全員の承諾があれば、普通決議もあれば特別決議もありますが、第2項は、全員が決議事項に賛成しているわけですから、書面等の決議方法の承諾の手続きを必要とせず、普通決議や特別決議の要件もありません。
 次に電磁的方法についてですが、第1項のただし書きに「電磁的方法による決議に係る区分所有者の承諾については、法務省令で定めるところによらなければならない。」と規定されています。そして、この「法令省で定めるところ」とは、「建物の区分所有等に関する法律施行規則」のことで、その第三条、第五条には以下のように規定されています。

(電磁的方法)
第三条 法第三十九条第三項に規定する法務省令で定める方法は、次に掲げる方法とする。
一 送信者の使用に係る電子計算機と受信者の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織を使用する方法であって、当該電気通信回線を通じて情報が送信され、受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該情報が記録されるもの
二 第一条に規定するファイルに情報を記録したものを交付する方法
2 前項各号に掲げる方法は、受信者がファイルへの記録を出力することにより書面を作成することができるものでなければならない。

(電磁的方法による決議に係る区分所有者の承諾)
第五条 集会を招集する者は、法第四十五条第一項の規定により電磁的方法による決議をしようとするときは、あらかじめ、区分所有者に対し、その用いる電磁的方法の種類及び内容を示し、書面又は電磁的方法による承諾を得なければならない。
2 前項の電磁的方法の種類及び内容は、次に掲げる事項とする。
 一 第三条第一項各号に規定する電磁的方法のうち、送信者が使用するもの
 二 ファイルへの記録の方式
3 第一項の規定による承諾を得た集会を招集する者は、区分所有者の全部又は一部から書面又は電磁的方法により電磁的方法による決議を拒む旨の申出があったときは、法第四十五条第一項に規定する決議を電磁的方法によってしてはならない。ただし、当該申出をしたすべての区分所有者が再び第一項の規定による承諾をした場合は、この限りでない。

 つまり、電磁的方法とは、記録が残せる書面の代用方法、例えば、WORDやEXCEL、PDFなどの添付ファイルのメール等で行う方法であり、スカイプやズームを使いながら行う会話による議決方法ではありません。従いまして、区分所有法では、WEB会議システムなどを使って開催する「総会」は認められていません。この方法で総会を開催するには、区分所有法を改正するか、法解釈の明確化が必要となります。
 ただし、理事会については、WEB会議システムなどを使って開催することは可能にできると思います。
 区分所有法は、理事会については全く言及していません。というよりも、「理事会」という言葉さえ条文の中には出てきません。「管理組合」の言葉さえも出てきません。「理事」や「監事」という役職名は出てきますが、これらは「管理組合法人の「理事」や「監事」であって、法人ではない「管理組合」の「理事」や「監事」ではありません。区分所有法では、法人ではない「管理組合」のことを、単に「区分所有者の団体」と言っています。皆さんのご自分のマンションの管理規約には、「管理組合」の言葉もあれば、「理事長」、「理事」、「監事」の言葉があり、そして「理事会」の言葉が出てきます。それは何故かと言いますと、管理規約のモデルになる「マンション標準管理規約」を模して作成されたからです。
 「理事会」に関しては、区分所有法は何ら規定していませんので、区分所有法の他の条文規定や民法等の他の法律に違反しない限りは、「理事会」に関する管理規約を独自に作成することができます。
 そこで、マンション標準管理規約には、第6章の一つの節として、第5節「理事会」が設けられており、その中の第53条に、理事会の決議方法について次のように規定されています。

(理事会の決議及び議事)
第53条 理事会の会議は、理事の半数以上が出席しなければ開くことができず、その議事は出席理事の過半数で決する。
2 次条第1項第五号に掲げる事項については、理事の過半数の承諾があるときは、書面又は電磁的方法による決議によることができる。
(以下、省略)

 「マンション標準管理規約」にも、総会の書面又は電磁的方法による決議について、区分所有法と同じ内容が規定されていますが、理事会については、総会のように全員の承諾があれば書面や電磁的方法で会議を開催することができるとは規定されていません。書面又は電磁的方法について唯一規定されているのは、第2項の、理事の過半数の承諾があれば、次条第1項第五号にある事項のみを、書面や電磁的方法で決議することができるという規定です。次条第1項第五号とは、組合員が専有部分の修繕を行う際や、窓ガラス等の改良工事を行う際に申請する申請工事内容の承認又は不承認のことで、組合員のためにも、これらの申請の承認、不承認を早く決定してあげないといけませんので、この場合にのみ、理事会を開催せずに書面や電磁的方法で決議できるようにしています。
 しかし、区分所有法は「理事会」に関しては何ら規定していませんので、この第2項の規定を全ての事項についても書面や電磁的方法で決議できるように変更することは可能です。ただし、規定を変更せずに全ての事項について書面や電磁的方法で決議した場合には、管理規約に違反しているということで、その決議は無効となる恐れがあります。

 大和ライフネクストのマンションみらい価値研究所の久保依子氏は「マンション標準管理規約改正への提言 ~Web会議システムを用いた理事会の開催について~」のなかで、次のようなマンション標準管理規約の改正案を提案しています。
【改正案】
(組合員の総会招集権)
第44条第4項(イ)<電磁的方法が利用可能な場合>に、以下の第三号を追加
三 会議の参加者同士の電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理        組織を使用する方法であって、当該電気通信回線を通じて情報が送信され、会議参加者が一堂に会するのと同等の相互に十分な議論ができるもの

 また、管理組合の運営を停止することはできないため、理事会で独自の運用規則を定めて、事態が鎮静化した後に開催された総会において、理事会の運営規則、理事会決議事項を追認することによって、理事会運営にWeb会議システムを利用することを検討した管理組合もあるようです。 以下の「Web会議システム運用規則」がその事例ですが、総会での追認が得られない可能性もあるため、理事会で決議できる事項を限定しています。これをモデルにして、Web会議システムによる理事会の開催ができる規定を新たに作成するか、既存の理事会運営細則に盛り込んではいかがでしょうか。

Web会議システム運用規則
(目的)
第1条 本規則は、2020年4月7日に発令された緊急事態宣言に伴い、本マンションの役員の健康を守るため、Web会議システムを用いた理事会を運営し、理事会活動を維持することを目的とする。
(Web会議システム)
第2条 本規則によるWe会議、電話会議等(以下「Web会議システム」という)は、次の通りとする。
一 パソコンやスマートフォン等を利用し、インターネット回線を通して通 話を行うもの
二 会議参加者が一堂に会するのと同等の相互に十分な議論ができるもの
(招集)
第3条 〇〇マンション管理規約(以下「本規約」という)第52条第4項にかかわらず、理事会の招集手続きは、少なくとも会議を開く日の2週間前までに、会議の日時、開催の方法がWeb会議であることを示して、理事及び監事に通知を発しなければならない。
(理事会の会議及び議事)
第4条 本規約第53条第1項の出席は、Web会議システムに参加した役員を出席したものとみなす。
(議決事項)
第5条 本規約第54条にかかわらず、Web会議システムによる理事会は、次の各号にかがける事項を決議する。
一 収支予算案、事業報告案、収支予算案及び事業計画案
二 本運営規則の制定、変更または廃止に関する案
三 長期修繕計画の作成または変更に関する案
四 その他総会提出議案
五 総会から付託された事項
六 災害、緊急事態宣言により、総会の開催が困難である場合における応急
的な修繕工事の実施等
(定めなき事項)
第6条 本規則に定めなき事項は、本規約、使用細則および総会で決議された事項に従うものとする。
(付則)
本規則は、2020年〇月〇日から、緊急事態宣言の発令が解除され、総会が開催されるまでの間、効力を有する。なお、総会により本規則、本規則により決議された事項が追認されなかった場合には、本規則、本規則により決議された事項は無効となることを確認する。
②運用規則について、役員の承認を得てから運用を開始 ・書面または電子メール等により、理事会運営規則について賛成する旨の合意を得る。なお、理事の合意 については、理事会決議と同等の過半数以上の賛成、できれば全員の役員から取得しておくことが望ましいとしている。
③総会で追認 総会の開催が可能となった段階で、理事会運用規則および理事会運用規則に基づく理事会決議内容について議案化し、総会の追認を受けることとしている。現段階では総会の開催に至っていない。(2020年4月16日 現在)

 最後に、おさらいとして、マンション標準管理規約のコメントとともに、次のように纏めてみました。

第53条(理事会の会議及び議事)関係 ⑤
「理事会に出席できない理事について、インターネット技術によるテレビ会議等での理事会参加や議決権行使を認める旨を、規約において定めることも考えられる。」

<まとめ>
*一定の期日に一定の場所に組合員を集めずして、全員の承諾で行う書面又は電磁的方法による総会の開催は、区分所有法第三十四条に規定する年1回の開催にはならない。
*区分所有法が改正されない限り、WEB会議システムなどを使って開催する「総会」は認められない。
*管理規約を改正すれば、WEB会議システムなどを使って理事会を開催することができるようになる。

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