武蔵小杉のタワーマンション水害被害の教訓 今後の水害対策に向けて
台風19号による被害は想像以上のものとなってしまいました。国土交通省によりますと、豪雨で河川の「決壊」が発生したのは、20日午前11時の時点で、71河川、135箇所です。そして、全国で6万2409棟の住宅が水につかり、約4765棟の住宅が全半壊や一部損壊、また土石流や崖崩れなどによる土砂災害は、21日午後5時の時点で、少なくとも全国で482件発生しており、亡くなった方は全国で82人、11人が行方不明となっています。
テレビや新聞等の報道でご存知の方も多いと思いますが、この台風19号で、神奈川県川崎市武蔵小杉にあるタワーマンションでは、電源設備が断続的に喪失してエレベーターが稼働不能になり、高層階に住む高齢者との連絡が途絶えるなどの被災問題が発生しました。また下水処理設備が稼働しなくなったために、各住居でのトイレの使用を禁止し、各階に設置した簡易トイレを使うように住民の皆さんに通達を出したようです。
タワーマンションは災害に強いと思われていましたが、実はタワーマンションは地震には強いが台風などの水害に弱い建物であることが、今回の台風でクローズアップされてしまいました。地震でも台風でもタワーマンションの建築構造面ではあまり心配はいりません。最近建築されたタワーマンションでは大抵が免震構造、または制振構造になっていますので、地震や台風である程度揺れるかもしれませんが、そのエネルギーを逃がす仕組みになっており、躯体などに著しい損壊が発生することはまずないでしょう。問題は、水害による電力供給ができなくなってしまうことです。タワーマンションは電力が安定的に供給されることを大前提として機能する居住形態になっていますから、電力供給に問題が発生してしまいますと、水害で地下にあった電気室が機能不全となり、建物内に送電できなくなってしまい、エレベーターは使えない、各住戸内のエアコンや照明はもちろん、電気に頼るあらゆる機能が停止し、建物全体が停電と同じ状態に陥り入ってしまいます。つまりタワーマンションは居住不能な単なる鉄筋コンクリートの塊同然となってしまいます。
さらに厄介な問題は水です。地震の際にも問題になることですが、タワーマンションの上水道も電力が供給されることを前提としていますので、電力が供給されないとポンプを稼働させることができず、水道水を上層階まで押し上げることができなくなります。そのため、水道が止まれば飲料水だけではなくトイレも流せなくなります。台風で自分のマンションが浸水するとは誰も思っていませんでしたので、タワーマンションの住民の方にとっては、まさか電気が使えない事態というのは想像さえしなかった事だったはずです。
今回のタワーマンションの浸水は、多摩川の氾濫によるものではなく、大量の雨水が下水管に流れ込んだために処理しきれなくなり冠水したのが原因です。武蔵小杉では短期間の間に大量のタワーマンションが供給されたため、下水道整備が追い付いていないという実態が浮かび上がってきました。今後、マンションの建設にあたっては、社会インフラの整備が不可欠であり、その整備負担金をマンション建設会社に求めるべきであるとの意見もあります。実際に東京都江東区では総戸数30戸以上のマンション建設にあたっては、開発業者に公共施設整備協力金を依頼しています。
下水道整備が追い付いていない状況で地上から1メートル以上の冠水があっても、軽微な被害で済んだマンションも武蔵小杉にはありました。地下への浸水を防御できたかどうかが明暗の分かれ道でした。軽微な被害で済んだマンションは、地下に通じる駐車場の出入り口に堅固なシャッターを設けて、水害が発生しそうな場合には予め締め切っていたようです。被害のあったタワーマンションにはシャッターがあったにもかかわらず閉め忘れていた可能性もありますが、とにかく電気室がある地下への浸水を防御できたかどうかです。
今回、大きな教訓を得たと思います。それは、「絶対に電気室に浸水をさせてはならない」ということです。この教訓を踏まえて、今後開発するタワーマンションには、水害対策として堅固なシャッターを備えてもらう必要あり、また、その運用方法も整備しておく必要もあります。一方既存のマンションでは、地下駐車場や地下室に電気室がある場合には、シャッター等の止水板を設置するか土嚢を準備しておく事が、今回の武蔵小杉のタワーマンションのような被害を受けないための対策となります。
今月末に開催される某マンションの臨時総会に出席する予定ですが、その総会議案の内容を確認する事前理事会において、ある役員さんから、今回の台風被害の事もあって「土嚢が保管されている場所はどこなのか」という質問がなされましたが、その他の全ての役員さんの答えが曖昧でした。たぶん管理事務室の横にある倉庫らしいのですが、倉庫は普段鍵がかかっているようです。管理員が居るときであればよいのですが、居ない平日の夜間や土日に土嚢が必要となった場合には、すぐに土嚢を出せないことが判明しました。そのことで、倉庫の鍵を理事長など一部役員にも持ってもらうようにし、合鍵を作ることになりました。そして、土嚢の保管場所と一部役員が鍵を持っていることを、臨時総会で私からお伝えすることになりました。幸いにも、このマンションの実質総会出席率はいつも60%を超えますので、かなりの組合員の方にインフォメーションできるはずです。
皆さんのマンションでも、この機会に止水板の設置や土嚢の準備を見直していただければと思います。止水板には、折りたたみ可能なボックスウォールなどの折りたたみ可能なものもありますし、非常に軽くて持ち運びが便利で保管・備蓄が簡単な吸水性土嚢もあります。また止水板設置費の補助金制度のある自治体(例えば大阪では吹田市や寝屋川市)もありますので、是非検討してみて下さい。