熊本地震全壊マンションの再生現況
日本マンション管理士会連合会の合同研修会に参加してきました。この合同研修会は年1回開催され、本年度の開催地は熊本です。平成28年(2016年)4月に発生した熊本地震で被災した全壊マンションの再生の現況と問題点が今回の研修の主題で、熊本県マンション管理士会副理事長の稲田氏から「全壊マンションの再生について」、熊本市都市建設局住宅部住宅政策課技術主幹の佐崎氏から「熊本市のマンション政策について」、そして熊本県マンション管理士会理事長の本田氏から「建物・設備の経年劣化、管理不全マンションの再生」というテーマで講演がなされました。稲田氏の「全壊マンションの再生について」では、全壊19棟(15管理組合)のマンションの概要と、3年8ヶ月が経過した再生の現況についての報告がありましたので、その内容を少し記載したいと思います。
まず概要ですが、全壊マンション19棟のうち5棟は一つの団地マンションで、その他の14棟は単棟マンションです。築年数は19年~42年で、14棟が鉄筋コンクリート造、4棟が鉄骨鉄筋コンクリート造、1棟が鉄骨コンクリートブロック造です。管理形態は、8つの管理組合が委託管理、5つの管理組合が自主管理、そして2つの管理組合が不明だそうです。
次に再生の現状ですが、以下のとおりとなっています。
●公費解体13棟・・・・・7棟が敷地売却、5棟(1団地)が建替え、1棟が再建
●自費解体1棟・・・・・敷地売却
●復旧2棟
●再生検討中2棟
●再生不明1棟
研修会の翌日、公費解体で建替えを行っているマンションと、再生不明のマンションを見学しに行ってきました。建替えが行われているマンション(旧5棟団地管理組合)は、建替え円滑化法による団地一括建替えで、鉄筋コンクリート造14階建て1棟、総戸数184戸です。建替え前は、5階建て5棟で総戸数100戸でしたので、戸数としては84戸増床です。完成は今年5月頃の予定です。
もう一つの再生不明マンションは、鉄筋コンクリート造3階建て、総戸数15戸のマンションで、築37年です。管理形態も不明で、その現状は、先日行政代執行で解体が始まった滋賀県野洲市の廃墟マンション並でした。こちらのほうは、地震で被災した状況のままとなっており、外壁が崩れ落ちた個所では鉄筋が剥き出しとなっており、この3年8ヶ月でかなり錆びてきている状態でした。1階の一部屋を覗いてみますと、大きな家財道具はありませんでしたが、生活用品が被災した時のまま放置されており、再生の道筋は困難を呈しているようです。
今回の報告では、公費解体・撤去支援制度は戸建住宅を基準としているため、対象範囲や申請期限の設定がマンションの実態に相応していないことが指摘されました。対象は地上の建物としており、杭や地下工作物等は対象外です。またマンションの場合には、公費申請する前に区分所有者の決議が必要であり、その決議には、震災時には通常より時間を要するために申請期限に間に合わなかったマンションがありました。公費解体及び撤去に係る申請期限は2017年10月4日まで、全員の同意書等の提出期限が同年12月28日までで既に終了していますが、熊本市は解体費用の一部を補助する方針を固め、2020年度予算案に組み入れる予定にしています。財源は復興基金で、今年4月を制度開始時期と考えているようです。
また、災害が起きてからではなく、災害時に時間の浪費や妨げになることを除去しておくためにも、管理組合としては、普段から所有者の確定、行方不明者・滞納者の対応策を講じておく必要があることも指摘されました。